アスレティックトレーナーとして、日々、学生たちに正しい体の使い方やケガ予防、パフォーマンス向上のためのトレーニング指導を行っています。今回は、アスレティックトレーニング指導実習で取り入れている「ブルガリアン・スプリット・スクワット」というトレーニングについて紹介します。
■ ブルガリアン・スプリット・スクワットとは?
ブルガリアン・スプリット・スクワットは、下半身を鍛えるトレーニング種目の一つです。特徴は、「片脚で行うスクワット」であること。後ろ脚をベンチなどに乗せて、前脚を使ってしゃがんだり立ち上がったりする動作を繰り返します。
ちなみに、ブルガリアン・スプリット・スクワットの名称は、1980年代、ウエイトリフティングの強豪国であったブルガリアの重量挙げ代表チームが取り組んでいたスクワットの方法に由来すると言われています。
■ このトレーニングの目的と効果
ブルガリアン・スプリット・スクワットは、一見シンプルですが、さまざまな効果が科学的に示されています。
筋力の強化と姿勢制御能力の向上:特に股関節伸展筋である大殿筋とハムストリングス、そして大腿前面の大腿四頭筋などを集中的に鍛えることができます。片脚で行うことで、左右バランスの調整や体幹の安定性向上にも効果があります。
膝関節への負担を軽減しつつ股関節を強化:マッキーらの研究(2021)では、ブルガリアン・スプリット・スクワットとバックスクワットを比較し、どちらも股関節を主に使うエクササイズであることが明らかになりましたが、ブルガリアン・スプリット・スクワットの方が膝関節への負荷が有意に少ないことが示されました。このことは、膝に不安を抱える選手やリハビリ中のアスリートにとって、安全かつ効果的な股関節強化手段となり得ることを意味します。
スポーツ動作に必要な「片脚支持」の力を高める:ランニングやジャンプ、切り返しといった多くのスポーツ動作は片脚での支持を伴います。ブルガリアン・スプリット・スクワットではこの片脚支持能力を自然と鍛えることができ、競技パフォーマンス向上にもつながります。
■ 正しいやり方と注意点
安全で効果的に行うために、正しいフォームが大切です。
ベンチや台に後ろ足の甲(足背)を乗せる:前足はやや前方に出し、足幅は肩幅程度を目安にします。
背筋をまっすぐに保ったまま、ゆっくりしゃがむ:膝がつま先より前に出すぎないよう注意します。
前脚の力で立ち上がる:反動をつけず、筋力でコントロールします。
左右それぞれ10〜15回を目安に:初心者は自重のみで、慣れてきたらダンベルなどで負荷を加えていきます。
この種目は、自宅でもできるシンプルなトレーニングですが、地道に取り組むことで、競技力の土台となる「強さ」と「安定感」が身につきます。正しい体の使い方を理解し、ケガを予防しながら、自分のパフォーマンスを引き出していくことが大切です。
本学の授業では、こうした基礎的なトレーニングを科学的な視点で学びながら、実践的に体験する機会を設けています。
教授・吉田 真 (専門:アスレティックトレーニング学)